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ソラスは後悔していた。
彼は地図を見るのがとても苦手だ。
だからと言って、荷物になるからと地図を置いてくるべきではなかった。
「前に近くを通った時は湖があったはずなのに…。」
「残念ながら影も形もないな。」
「北に抜けたんだよな?」
「間違いない。森を避けて出た。私の記憶でもここは湖だ。」
二人は困惑していた。
風が通りぬけ、青々しい香りが二人の肺を満たす。膝近くまである草が波のように揺れる。どこまでも続く、緑。
草原だ。
「とりあえず…歩くか…。」
「だな。」
日が傾いて行く。
紅い夕方の光が長い影を作る。
ソラスはふと立ち止まり、右手を見る。
「…街だ。」
白い城壁が紅く染まっている。
「ああ。」
「走るぞ!」
ソラスは言うが早いか走り出す。パールも後に続く。
「どうして走るんだ?」
「そろそろ門が閉るんだよ!」
ああ、と納得するパールを尻目にソラスは走る。
「そこの門、閉るのストーップ!!」
こうしてなんとか野宿は免れたのであった。
宿だけとってソラスとパールは分かれる。
パールは街が珍しいらしく、一人で見て回っている。
ソラスの方は数日の疲れを吹き飛ばすため、酒場に入ろうとしていた。
未成年の割に、アルコール度数と値段の高い酒を肴無しに飲む。その姿は年齢に似合わぬ落ち着きだった。
「隣、良いですわね?」
隣に座ろうとする紅い髪の場に似合わない少女をちらりと見る。
「何飲む?おごるぜ?」
「いいですわ。外で話がしたいだけです。」
ソラスは1cmほど残っていたウィスキーを飲み干し、カウンターに金を置き、席を立つ。
暗い路地裏で二人の男女が立ち止まる。
「六賢者ミノルの巫女がどうしてパールを襲ったのか教えてもらおうか。」
髪をまとめているゴムを外しながらソラスは言う。振り返る動作に青い髪がついて回る。
「彼女は光使いよ。…つまり、混沌をもたらす者よ。」
ソラスは話しが掴めず首をかしげる。
「光使いと言うのは常に、破壊の女神の魂を保有して生まれるわ。彼女がいるだけであらゆるところで破壊が起こります。」
「そういう伝説、だろ?」
ソラスはばかばかしい、とでも言いたげに首を振る。
「それでも、危険の芽は摘んでおかなくてはなりません。あの森の所為で今まで手をこまねいてきましたが!」
「…あいつが……いるのが悪いと言うのか?生まれてきたことを罪だと言うのか?!」
普段より強く、少し高い声でソラスはアンジュラルに反論する。
「だって、あの子は…破滅をもたらすのよ!」
「伝説は真実ではない!」
「でも…!」
「でも私は破壊の女神だ。」
アンジュラルは後ろを振り返る。
そこには街の明かりに照らされた光使いがいた。
「わかっている。私があの森で暮らしていた理由も、あの森に何重もの結界が張られていた理由も、小さい時の記憶が封印されているのも、全て。私のもうひとつの魂を封じるためだ。全てわかっている。」
彼女が一歩足を進めるごとに空気は重くなっていく。
抑揚のない声も、揺れる事のない視線も、全てが、彼女が女神の魂を保有する事を拒否できないようにしていた。完全に、飲み込んでいた。
「私の人生だ。私が決める。父の遺言以上に、私が外に出たいと願っていた。ソラスにあって今しかないと思った。私が決めた。」
空気の振動が教える。ここは女神のテリトリーだと。
絶対の混沌を。
アンジュラルは、その言葉に自分の行いを恥じ、
ソラスはその力に、何故か身体の奥が狂喜するのを感じた。
動けない二人と、動かない一人。
新緑の髪がさらりと揺れ、その持主が静かに微笑む。
無邪気で、全てを破壊するかのような笑み。
ソラスは自分自信をなんとか押さえ込んだ。