ぼくはこれを書く
とても面白いから
そのときぼくは困っていた。夏休みの国語の宿題を創作にするというところまでは決めた。
「ふう」
ぼくの口から出たのは溜め息だったと記憶する。
―やっぱ読書感想文にすればよかったかな。
――その通り
誰かの声。そのときのぼくにもその声が誰のものかわかっていたはずだ。
――おまえは本を読むことが好きだし、そっちのほうが楽じゃねえか。
―他人の作品に文句はつけたくない。作品を最も理解できる人は書いた本人のはずだ。
――それじゃあおまえは自分が理解できる作品が書けるのか。
―わからない。独自の文章を書くなんて初めてだから。
――そうだろう。今までは読んでばっかりだったもんな。
―書いてみるっていうのも意外と面白いかもしれない。
――そんな簡単なものかねぇ
―難しいかもしれない。初めてのぼくにはわからない。
――おまえは甘いよ。難しいと決まっている。大体どんな話にするのさ
―まだ考えている。そうだな冒険者の話なんてどう
――ありきたりで、難しい。無理だな
―わからないだろ。
――主人公は?舞台は?
―今から考える
そこでぼくは真っ白な紙にいろんなことを書いた。主人公の設定―冒険者らしい剣を持った格好―、舞台である街―、それらしい西洋風―、を文字とへたくそな絵で書いていった。そしてぼくは気がつく。
――やっぱり無理だろう。
―ぼくもそう思った。
――やけに素直だな
―これだと話が膨らみすぎて書き終わらない
それはうそ。つまらないと思っただけだ。ぼくは誰に逆らうつもりだったのだろう。なぞだ。
―ほかの話だな
――まだ考えるのかい
―ああ。例えば学校の話。そうだな部活とか
――それもまたありきたりだな
―結構面白いと思うけどな。そうだな、たとえば・・・吹奏楽
そこでまたぼくは新しい紙に書き始める。主人公は男、担当楽器は・・・
―やめた
――もうかい。早かったじゃないか
―あまり期待できない。ぼくの書ける内容じゃない
――そうかい。次はなんにするのだ
―とめないのか?
――もう無駄だと思って。止めてほしかったのか?
―驚いただけ。
――そうか。性懲りもなく考えるのだろう、次を
―その通りだ。じゃあ、魔法使いの話
――ほう
―否定もしないのだね。そうだな、内容は女の子がおばあちゃんの実家で不思議な女の人に会うんだ
三枚目の白かった紙にもたくさんの書きつけ。女の子が魔法使いになり箒で空を飛び、人を助ける話になっている
――それも良いが童話なんかどうだ。書きやすいのじゃないか
―そうかな。どんな話
――
――やめとけ
―そのほうが良いかもしれない
――だろう
―でも、もう話はできた
――どんなさ
―これをそのまま書けば良い
――なんだと、やめとけおもしろくもない
―他人には面白くないだろう。ぼくは楽しい
――いいかもしれないな
―君が賛成してくれるならきっと良いよ。
――なぜ
―君はぼくの思っていることを言ってくれる。君はぼくの心情なのだから
――わかっていたよ。ぼくと君はもともとひとつ。ひとりが考えたことを
―もうひとりが正し、また新しいことを考え前へと進む
―――ぼくは君で君はぼく。裏と表、切ったらまた生まれる―――
面白いだろう
だからぼくはこれを書いた
今ももう一人のぼくが言っているよ
――読んでくれてありがとよ
じゃあね
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